榛原誌

榛原トリコ・夜・芯etc…榛原たちの湘南暮らし

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4月11日・12日

4月11日

入院している猫の面会に娘と出向く。

怒っているらしいことは聞いていたが、檻の中で、首にカラーを巻き、点滴につながられた猫は見た事もないほど激怒していた。

片頬を地面に押し付けて逆立ちし、後ろ足で檻の壁を蹴って咆哮していた。このような動物の形は彫り物でしか見た事がない。いくら話しかけても、興奮状態が収まらず、触ることも出来なかった。娘はあまりの恐ろしさに涙目になって後ずさっていた。食事は一切口にせず、体重は点滴で3.1kgまで回復、熱も1℃下がったとのこと。ただし黄疸が進み、腹側の毛と手足、耳が黄色くなっている。

「ズートピア」のオッタートンさんみたいだったね、と言い合いながら、しょんぼりと帰る。

 

4月12日

どうぶつ病院より入電。

急変か、と思いきや、担当医が午後は席を外すので、血液検査の結果を電話してくれたのだった。

肝臓の数値は良くなっている一方、黄疸がかなり悪化。明日外科医と相談することになるが、胆嚢の手術をする意向の有無を聞かれる。もしも外科医が今すぐに手術のできる病院にうつさなくてはならないと言ったら、入院先からすぐに搬送されるからだそうだ。

ごはんを食べられていないので、体力的に手術はどうなんでしょう、全身麻酔を入れてそのまま目を覚まさない、という可能性はどのくらいあるんでしょうか、とたずねるも、何%ということは言えない、ただそのリスクは充分にあります、との答え。

できれば今回は内科的治療で、体力をつけさせてから改めて手術という形が希望です、と答える。ただし、今すぐ手術をしなければ危ないが、治る見込みがあるというのであれば、お願いします、と付け加え、電話を切った。

夫に、そういうやり取りがあったことを報告しながら、家で看取ってあげたいけど、ずっと苦しんだ末に胆嚢が破裂して腹膜炎になって激痛で死んでいくよりは、手術の全身麻酔で逝くほうがいい気がするのだけれど、あんなに病院が怖くて嫌いなのに、最後怖がったまま死んで行くのかとおもうとどうなのだろう、と送る。夫は、苦しみが長引かないほうがいいと思うから手術に賛成だ、という意見だった。

 

1人で猫の面会に赴く。白い長毛種なはずの猫は、驚くほど黄色かった。和芥子を腹側にべったり塗ったのか、という黄色さ。黄色い汗が腹を染めているのだろう。尿も、どろりとした和芥子そのものだった。

猫は少し唸ったが、話しかけると鼻をひくつかせて私だと気づいた模様、2人きりになると、椅子に座る私の膝に降りてきた。そこから、置いてあるキャリーの匂いを嗅いで、ちょいちょいと触ろうとし、私にニャアと鳴く。帰りたいのだ。なででやると、白い毛の間から、クレヨンで塗りたくったような、黄色い肌が見える。

1時間ほどなでていると、満足したのか、帰れないことを悟ったのか、檻の中に自分で戻って行き、香箱座りをした。

今日は口の中に何度か注射器で強制給餌されたが、吐き戻しはなかったそうだ。熱も平熱まで下がっている。がんばってごはんをたべて、体力をつけるんだよ、ごはんをたべると、おうちに帰れるよ、がんばって、と声をかけ、檻の扉を閉めた。檻の扉を閉める音は、とても重たい。