榛原誌

榛原トリコ・夜・芯etc…榛原たちの湘南暮らし

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11月21日

祖母の引っ越し時にもらった大きなテンピュールの枕を手提げ袋からはみ出させながら、父の見舞いに東京に出る。

受付に行くと、看護師さんが、あ、今日からマスクなしで面会OKです!と言う。と、いうことは、結核の検査結果が陰性だったということだ。

病室の父は、もう点滴も外されて、相変わらずテレビを観ていた。高栄養の点滴を外されたためか、むくみが取れたのか、この前来た時よりも痩せこけて見えた。早速買い物を頼まれる。はさみとボールペン。はさみは、パックのジュースやプリンの蓋が開けられないからだという。

コンビニに降りると、ずらりとボールペンが並んでいるのはいいが、そのほとんどがフリクションで、ここで使うのは同意書を書いたりすることがいちばん多いのに消えてしまうボールペンをこんなにメインに置いていていいのだろうかと心配になる。

 

病室に戻ると、これ書いといて、と紙を渡された。

「家族が重病だった場合に本人に告知すべきだと思いますか」というアンケート用紙だった。

本人に告知すべし。理由「超楽天的な性格で家族の言うことを聞かないので深刻なときは深刻な状態であることをちゃんと先生に伝えてもらったほうがいいと思う」

もしご自身の場合、告知してほしいですか、その理由はなんですか。「告知してほしい。自分の命のことだし、残された時間でなにができるか考えたいから」

 

書き終わって、父の回答した紙を、なんとなく見たら悪いかと思い、見ずに閉じた。

娘の七五三の写真を観せてというのでiPhoneを渡す。受け取る父の爪が何本か黒い。

どのくらい歩けているのか、と尋ねると、まだ病室の外を歩いていないからわからない、と言う。トイレには歩いて行けているらしい。

介護申請について看護師さんに尋ねたらしいが、今の状況だと介護認定が降りなさそうだという。「要支援にもならない?」と聞くが、様子を見に来る認定人が、入院中には間に合わないようだ。

そのうち先生がやってきて、今回の件について説明を受けた。

 

まず、今回の入院の理由は、低血糖と栄養失調であり、血糖値は現在回復、むしろ少し高血糖である。

栄養状態はもう少しというところ。今は低塩分の普通食を3食食べられている。

そして、今回こうなった原因の一番としては、飲酒量。お酒はミネラル分を分解してしまう部分もあり栄養の吸収を妨げるので、お酒は少し控えましょう。

量としては、1日ビールは1缶、焼酎ならコップ1杯程度。休肝日を週2日。

タバコはぜったいにダメ。

それと、今回の肺の黒い部分ですが、結核だけは絶対に否定しなくてはならないので、今回3回に渡り徹底的に検査をし、陰性であった。まだ他の病気の結果は出ていない。これで病室から出て行けるようになったので、明日から他の検査やリハビリをはじめる。土曜日に呼吸器内科の受診。予定では来週の水曜日あたりに退院。

また、持病の一週間に一度の薬の変わりに、新しいスタンプ式の注射に変更。家族の方にもやり方を見てほしいので、次回いらした時に見てください、一回見れば大丈夫。

 

今まで私ずっと言わなかったけど、いよいよ煙草、やめようね、と言う。

お酒も煙草も私辞めれたし、お父さんもきっと辞めれるよ。

父は曖昧に口を曲げたので、「やめないつもりだな!!」と言うと、笑って、いやあ、とニヤニヤしていた。

水曜日、私車出せるよ迎えに来ようかと言ったが、父は、一人でタクシーで帰るからいい、と言う。とりあえず引き下がるが、また来週打診するつもりだ。

妹が、風邪の具合で三連休病院来られるかどうかわからないって、と言うと、「俺のことよりあいつの方が心配だな」と言う。全然そんなことはない。

 

妹に、電話していいか聞くも、声が出ないというので、帰りの電車の中で1時間ばかりずっとLINEのメッセージで現状を送り続けた。

お父さん異常気象のせいにしつづけていたけど、ふつうに酒が原因て言われていたよ、と送ると、「ちょっと!!!電車の中で笑わせないで!!!!」と返事がくる。