榛原誌

榛原トリコ・夜・芯etc…榛原たちの湘南暮らし

シナリオライター/文筆家/お仕事の依頼はtoriko.haibara@gmail.comまで。


12月2日

夫と娘はクリスマスツリーをリビングに設置、私は庭でベーコンを燻製していると、妹からLINEのメッセージ。「今お父さんち来てドア開けたら大量の血が!」 

急いで妹に電話をかけるがなかなかつながらない、処置か掃除をしているのだろうし電話ではなくメッセージということは最悪なことではないのだろう、一体何があったのかとメッセージを入れておく。

 

どうやら、玄関で転倒して顎を切ったらしい。

 

更に1時間後、妹から「ヤバい血が全然止まらない」と入る。父は持病の関係で血が固まりにくくなる薬を飲んでいるのだ。救急車を呼んだほうがいいかどうかを訪ねる7009(千葉県)にかけてみてはどうかと促す。かける妹。混み合っていて電話が全然つながらないと妹。

トイレにと立った父が再び転倒したので、妹は救急車を呼んだ。もう出血は止まったから救急車返ってもらってと言うなど父はあくまでも現状を把握していない。

 

病院に運ばれて、そこからかなり長かった。

お昼前に父の家に行った妹が帰れたのは、20時をゆうに過ぎていた。

 

父は、あれだけ言われていたにもかかわらず、夜にビールを一缶お酒を2合飲んだらしい。申告した量でそれなので、多分もう少し飲んでいるだろう。タバコもかなり吸っていた。

 

突如、妹より入電。

なにごとか、と勇んで電話に出ると、父が「かかりつけの大学病院に入院出来ないか電話して聞いてくれる?たぶん出来るから」と言い出したそう…。

病院はホテルじゃないんだから電話して入院させてくださいって頼めるもんじゃないし、もうこんなことにならないよう言われて帰されたのにすぐ飲酒喫煙暴食して倒れたんじゃ絶対無理だよと言って、救急の先生が入院を必要と判断したら大学病院に連絡入れて貰えるのでは、と返す。

 

救急の先生は呆れ顔で、なんで入院したいんですか?と父に尋ねた。父は、明日から3日も外来が入っているんで〜と答えたそうだがもちろん入院などさせてもらえるわけもなく、そこから2時間ぐらい、妹は待合室で待たされた。

点滴でもしてるのかな?長いね…と送ったところで妹より入電。

父、顎を骨折していたとのこと。

「…母に殴られたんじゃないの」

「私もそう思う」

「いい加減にしなさい!って」

「強烈なパンチだね…」

とりあえず今飲んでいる薬はストップし、明日の大腸検査をキャンセル、口腔外科に行くよう言われる。

「もうイヤ…!」と嘆く妹に、が、がんばろう!と思わず言うが、本人がなんにもがんばらないのに私たちが何を頑張ればいいというのだ。

「うちの掃除だってしてないのになんでお父さんちばっかり掃除しなきゃならんのじゃ…!!もうイヤ!血痕ばっかり!!」

「や、やだよねー掃除もやなのに血痕ばっかってふつうにやだよね!」

 

しかし若い男性の先生は父に、血糖値からも飲酒していることがわかっています、娘さんにも迷惑かけているんだからお酒はやめてください!と叱ってくれたそうだ。

「彼を1人にしないように」と先生。

「無理です」と妹。

「大丈夫です」と全然大丈夫じゃない父。

あの人の大丈夫ってなんなの!?と怒る妹。

口癖なんじゃない…?と私。

「ただ、一人にしなくても平気なところを今検討中です」と妹はわざと先生の前で言う。

早急に準備してください、と先生。そっぽを向く父に妹は、今は普通のマンションと同じようなところもある、おばあちゃんが住んでいるのはそういうところだし、と父に説明した。

 

最初はふてくされていた父だったが、妹の説明が功を奏したのか、帰りの車の中では了承し、自分の家の近くで探すのと、湘南で探すのとどちらがいいかという質問には、どちらでも良いけど今の家に近いほうがいいと言ったそうだ。その理由はいっこだけで、母のお墓が近いから、だった。でも…墓参り普段行ってるの私だけなんだけど…?

お墓参りに行きたいのなら、私と一緒に行けばいい。私が車で連れて行ってあげられる。父は、手術が終わったら探し出すと悠長なことを言っていたらしいが、それで間に合うのか。それまで、いったい、誰がどのようにして目を離さないようにしたらいいのか。なにから手をつけていいかわからない。介護申請は6日の脳外科の診断の後にしたほうがいいし、とにかく、家の資料請求だ、と、12件ばかりの高齢者向け住宅と有料老人ホームの資料請求。

 

今日のことを、すべて、本人がどう思ったのか、どう感じたのかわからない。

でも、大したことないように思っているのは確かだ。

それが証拠に、妹が家に父を送り届けると、ソファーに座った父は妹にすぐさま、悪いんだけどタバコ三本くれない?と言い放ったのだ。ホラーだ。

妹もさすがに「いい加減にしてよ!」と怒鳴りつけ、それを聞いた私は虚無感に包まれた。父はふてくされ、帰るよと言った妹にお礼の言葉もなくTVを観たまま追い払った。

 

父の心機一転とは。予想をはるかに上回っている。

 

妹は、いいちことタバコを捨てて帰った。

私は明日、7時前に家を出て父を車で迎えに行き、8時にかかりつけの病院に電話をしなくてはならない。