榛原誌

榛原トリコ・夜・芯etc…榛原たちの湘南暮らし

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3月13日

朝起きても、瀧の逮捕は夢ではなかった。

虚無感だろうか、私は驚くほどなんの感情もなく、ただ猛烈に疲労を感じていた。

 

高1だか中3だか、電気グルーヴの前身バンドである「人生」の録画ビデオを私に見せてくれた友人に声をかけようかと頭をよぎったけれど、いったい、なにを言えば良いのだろうか。

彼女のtwitterをのぞいてみても、驚いたという以外言葉がない。そうだよな。言葉、ないよな。勝手にうなづいてみたり。30周年なのに。

 

瀧が急に痩せたから、病気なのではと心配していたけど、病気じゃなくてよかった。捕まって、クスリをやめられるきっかけができてよかったな。

なんて思ったり。

 

それで、時間が経ってショック状態が抜けると、「ダセエな」という言葉が頭を占めた。

覚せい剤じゃなくコカインというおセレブっぽさオシャレっぽさが、その、ちょっと手を出してる感じが、まずダサい。

更に、50過ぎてというのが強烈にダサい。

ツアー中に捕まったのもダサいし、アニバーサリーイヤーだったこともダサい。

クスリをやってなくて頭おかしいっていうのが電気グルーヴじゃないのか。日出郎もコメントしてたけど、若かったらもしかしてもあるかもだけど、なんで今。ていうかとにかく瀧がクスリってダサくない?

 

高校生の頃からずっとずっとずっとカッコいいいいいと痺れていたのに、カッコいいひとが、カッコいいおじさんのこと、こんなにダサいと思うなんて辛い。魔法と思っていたかったことを、手品ですと明かされたみたいに辛い。

槇原敬之が再び活動できたのはどのくらい経ってからだったか。あの時より世間は厳しくなっているだろう。ほとぼりが冷める頃、瀧は一体何歳になっているのか。それに槇原敬之は、自分で曲が作れるけど。

 

電気の映画を観に行ったとき、舞台挨拶に2人が出てきて、卓球が全く落ち着かなくふざけてばかりいて、ふっと瀧に

「お前こういうの嫌いだろ、こわいだろ」と言った。瀧はムッとして

「こわくねーよ」と言い返した。

なぜかそれを思い出す。

こわくねーよ。ほんとに?

 

いろんなところがシャッターを音を立てて閉めるように対応するのを見ていた。火が燃え広がるようなどうしようもなさに、感情が立ち尽くす。災害のよう。

 

夕飯は、作る気力がなくて、ポトフとバゲット。バゲットには生ハムと無塩バター、オリーブオイルとパルメザンチーズを添えた。