榛原誌

榛原トリコ・夜・芯etc…榛原たちの湘南暮らし

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3月15日

24時間以上眠っていないことになっていた夫だったが、寝付いても1時間に1回起きてしまったということで、今日は会社を休むことにしたらしく、朝寝を終えたら洗濯物部屋干ししてコストコに行ってもらうようお願いし、私はバイトに出かける。

 

簡易スタジオ内で着物の着姿の写真を撮るオプションがあり、私は案外写真を撮るのが好きだと知る。

着付けのアシスタント業務と受付業務のうち、後者に入っていることがほとんどなのだけれど、受付はお客様に対しては、注意や時間制限のことばかり口にしなくてはならないので、嫌な顔をされることは多々あっても、他のセクションのように喜ばれることはほとんどない(飛び込みを受け入れる時、又は遅刻を融通してあげた時ぐらいである)。

そんな中、写真は、一眼レフでこんなかんじに撮れましたよと確認画面を見せる時、またプリントアウトした写真を見せた時に、必ず、わあ!と言って、喜んでもらえる。

理由は主に画質がいいからだが、喜んでもらえるのはいい。すごくいい。

よく、バイト募集の広告に「お客様の笑顔を見ることにやりがいを感じます!」といった文言が載っているのを見るにつけ、長年「は?」と鼻白んでいたし、それどころか「ということは賃金の低さを笑顔をもらうことでカバーしているということか…?」と、訝しんだりしていたのだが、今、私をバイトへと突き動かしているものの4割は、若い女の子と外国人の喜びようである。

私が年をとったからということもあるだろうし、私の本業が孤独だからというのもあるだろう。

とくに外国人のお客様は、ポーズをとる時からノリノリで楽しいし、画面を見せた時には「なんてかわいいの!」と感嘆し、プリントアウトしたものを手にしたら「キレイ!」「カンペキ!」「最高!!」と叫んでくれるので、ほんとうにうれしくなる。

 

今日の外国人のお客様たちは、写真の台紙に書いてある文言を指し、なんて書いてあるの?と尋ねて来た。

「ええと…本当に本当にありがとう、私たちのお店に来てくれて。これが…今日…うちの店の着物を着たことが…ええと…私たちは望んでいます…えーと、なんだっけ、よい……わすれないで…?」

「(全員声を合わせて同時に)メモリー!!」

「あ、そう!! 良い思い出となるよう私たちは望んでいます、いのっています、です」

ああ、と厚い胸に褐色の手を置いて彼女たちは深くため息をつき、「アリガトゴザイマス」と日本語で言った。とんでもないです、と私も日本語で返した。とんでもないって、よく考えたら、よくわからない言葉だ。語源を調べてみようと思う。

 

帰り道、朝はまだ咲いていなかった桜が、ぼふっと花開いていた。

 

夕飯は蒸し鶏とごはん、野菜のスープ。鵠沼魚醤で味付けをした、夫の好物だ。

コストコで頼んだものは、4回目にしてようやく全て買ってきてもらえた。

ただ、私が今回もまた、レンチンごはんを頼み忘れてしまっていた。

夫はホワイトデーと称し、私と娘にケーキを買ってきてくれた。

私はシュシュクルのクッキーを、娘は31のシェイクをリクエストしたので戸惑ったが、ホワイトデー第一弾だと聞いて、安心して頂戴した。