榛原誌

榛原トリコ・夜・芯etc…榛原たちの湘南暮らし

シナリオライター/文筆家/お仕事の依頼はtoriko.haibara@gmail.comまで。


4月1日・2日・3日

4月1日

千葉の田舎、母方のお墓のあるお寺の桜はもこもこに満開で、語感的には日本語の「満開」よりも、「full bloom」のほうがしっくりくる。

おじいの墓を参るといつもやたらと日光が私たちを照らしてくれる。イトコと娘と3人で墓参りをすませて、相変わらず人のいないひなびた海岸の堤防で、NHKの新元号発表の中継を観るべくiPhoneを3人で覗き込んでいた。

令和の文字を見て、私とイトコは、いいね、いいじゃん、未来ぽい、と言い合い、娘は、「令和生まれがよかったー!」とまで言う。イトコと娘は竿のような長い棒で、砂浜に大きく、令和、れいわ、と書いていた。

なじみの寿司屋で昼ご飯を食べ(「みなさんお元気?」「はい、いや、元気じゃなかった、父は自業自得で入院中です」「やっぱり寂しいんじゃない?」「いえ、怖い人がみんな死んで、ウキウキの一人暮らしで今が楽しくってしょうがないって言ってます」)、桜の名所をドライブし、菜の花の香りにむせながら、干物と花とピーナツバターを買って車に乗り込むと、途端に大雨となって、ああ、おじいの力もここまで、天気もたせてくれてありがとね、と言いながら東京へ、イトコを家まで送り、もう薄暗くなっている墓場を小走りに、母の墓に買ってきた田舎の花を供えた。娘は手を合わせて、れいわにきまったよ、と報告をした。

 

妹からメッセージ。

「父より、貧血の結果がいいので大腸の内視鏡検査が延期になりました。退院の予定も変わるのでまた連絡しますとのこと」

ヤレヤレ、という絵文字がついている。

 

 

4月2日

明日は娘がカレンダーに印をつけて数えるほど楽しみにしていたボードゲームの会で私の友人たちがやってくるので、丸一日、片付けと掃除をした。

ひな人形をようやくしまう。心なしかお雛様のおぐしが乱れてやつれて見えたので、ていねいに髪を整えて謝ってから箱に入れた。

 

父からメール。

「明日退院することになりました。迎えに来られますか?」

え!!!!!!!と声が出る。昨日の今日で!?もう!?

明日はかねてからの人がたくさん来る予定があって無理なんだけど大丈夫!?と謝ると、叔母に来てもらうから気にしないでください、と返事がくる。え!?おばさんが!?世田谷から浦安まで、還暦すぎたおばさんが迎えにいくの!?気にするけど!

続いて妹から「明日退院だって!?」とメッセージが入る。もちろん妹も行けないのだ。

まあ、手術の入院ではないし、医者が一人暮らしもできると判断して退院させるわけだからほんとは一人で帰ってもいいんだけど…。それにしても、いつも急展開。

 

夕飯は、田舎で買ってきたいろいろな干物。ここも海のそばだけど、田舎の干物のほうが身が厚くて味が良くて安い。干物屋お薦めのかさごの干物がほくほくしてとてもおいしかった。

 

 

4月3日

友だちが来るまでの午前中、尚も片付けと掃除。それでも書斎はほぼ片付かず。年末の大掃除をしなかったつけがまわっている。いつもはぶうぶうの娘も、自分の愉しみのためなので、片付けも掃除も積極的だ(物を捨てることだけはぶうぶうだ)。

 

父から「退院しました」とメール。退院おめでとう!と祝いのマークを送る。

 

友だちが来て、みんなでおいしいパンなどを食べてから、あとは持ってきてもらったボードゲームとカードゲームでひたすら遊び続ける。私はたまに参加して、あとはお茶を作ったりおやつを出したり、まだ書斎を片付けたりしていた。

 

ふと気づくと、妹から何通かメッセージが入っていた。

叔母が私に連絡しているけど返事がないって心配していた、から始まって、父の胃カメラの検査結果が出て胃がんが見つかったそう、とあった。

来週水曜にお茶の水に行って手術をお茶の水でするのか浦安でするのか決めるそうだ。

私には父から退院したことしか知らされてなかったよありがとうと送ると、妹も、私も父からは退院したことしか聞かされていないと言う、叔母がいっしょにいてくれて良かった。

ともあれすぐに叔母にメッセージを送り(なんの連絡も来ていないので彼女は動揺して他の人にメッセージを送っていたと思われ)、ステージはいくつなのかを尋ねると、癌と聞いて驚いちゃってそういうことを聞くのを忘れてしまいました、でも、手術ができる程度ということですね、と、お嬢さんな返しが来る。手術が、内視鏡ですむのか、胃の切除なのかも聞いていないと言う。

妹にメッセージを送ると、「なにを驚くことがあるんだろう…」と、まったく私と同意見で笑った。「舌癌、食道癌、ときて、胃におりてきたね〜」「ぜんぶ酒の通り道!」「むしろ癌じゃないほうがおかしい…」「なんかい癌やっても倒れてもなんにも節制しないしね」

まあとにかく夜にまた連絡しあおうと言って、私はふつうに友だちと楽しく過ごし、子どもたちが寝静まってから、あらためてメッセージを投げ合う。

父に電話をしたという妹は「まだ酒を辞める気がなくてビビる。まー検討するかなくらい。ありえない」と、イライラした絵文字。

「今までの癌の手術がお茶の水だったから、書類持ってお茶の水行くらしいんだけど、お父さん的には浦安がお気に入りになったからそっちで手術したいみたい。くわしいことわかんないどころか、なんか回診のときについでに言われたっぽい」

「そんなライトな告知ってあんの!?」

「胃がんの知らせと退院の知らせが同時とかwwww」

「まあお父さんの情報あてにならないから…胃カメラの結果は大丈夫だったっていうのはなんだったの…」

「水曜、一人で行ってちゃんとした情報受け取って来れるのかなー。ていうか来週水曜まで倒れないで生活できんのかな」

「それはある。今日もステーキ食べちゃった☆とうれしそうに言ってた」

「胃をやられているのに…? 学習能力なさすぎて怖い」

「それすごい言った。暴飲暴食するとまた倒れるから健康管理して!!!!!!!!!!!!!!!って」

「また、私たちが行かないといけないから…。退院してすぐ…ステーキ…」

「信じられないよね、そんなどぎついもん。我が父ながらバカなのかな?」

「危機感なさすぎ。退院、イェーイ!!みたいなことしかいつも考えてない」

「シャバに出た!うまいもんくおー!」

「退院=全快だと思ってるから」

「なにも解決してないのに」

「なんで退院になったんだ…」

「ジャマだからじゃない?」妹はひど面白い。

「とりあえず、来週水曜はバイト入ってるけど、休めるか聞いてみる。そのまえにお父さんにいっしょに行くこと言ってみる」

また手術の付き添いだなぁ〜空いてる日だといいけど〜とぼやいて、あとはもう関係ない、子供たちの面白い話などをして、会話を終え、長い一日を閉じた。