榛原誌

榛原トリコ・夜・芯etc…榛原たちの湘南暮らし

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3月5日

今日は花粉がすごい、と言い交う人々の中、私の症状は落ち着いている。

ようやくザイザルが身体に浸透しはじめたのだろうか。

先日まで毎日投与していたステロイドの点眼も、今は耳鼻科からもらった目薬で済んでいる。

 

着物レンタルのお店には、ここのところ、高校生3年生のお客であふれている。

試験が終わって、晴れやかな顔で友だち同士、とにかく楽しくて仕方がない、という子たち。

今日は予約がいっぱいで飛び込み客は受け入れられなかったのだけれど、中国人のカップルがどうしても御願いしたいと店頭に座り込みをした。他にもレンタルのお店はいくつかあるよとこっそり促しても、首をふり、私が調べうる中でこの店が最高だったどうしてもこの店で着たい私たちは3日しか日本にいないのだ、と言って粘るので、そんなに?とおののきながら、丁度キャンセルが出たこともあって、入れてあげれることになった。

着物を選ぶ段階で、翻訳アプリを駆使して女の子は、「私の顔に映える着物はどれでしょう」と尋ねてくる。知らんがな、と思いながら、好きなのを選んだらいいですよ、と言うと、彼女は一枚のスモーキーな色の着物を指し、音声は日本語で「たとえばこの着物は私の母が選びます、しかし、これは私の肌の色を暗くするでしょう」と言うのだった。

私の英語力はお手上げだったので、私もポケットからザッとiPhoneを取り出すと翻訳アプリを開き、「あなたが好きなものを選んで大丈夫だと私は思います、明度の高い色を選べば肌の色は暗くならないでしょう、例えば赤、黒、ピンク、黄色などはいかがですか」と言った。羅列する中国語をじっと見下ろして、通じたのかどうか、彼女はOKOK、と肩をすくめて、やがて黄色や赤の大きな花の柄を選び、着付けてもらうとご機嫌で「私が調べうる中で最高の店」からお出かけになった。

 

 

学校から帰宅直後であろう時間に娘から着信があったことに気がつく。なにか起きたのか、と、不安な気持ちで急いで留守電を聞くと、マラソン大会で1年生の女子の一位を取ったという。はやく伝えたくてたまらなかったのだろう。

 

今日のお弁当は、手羽中とピーマンと茄子のオイスターソース煮。久しぶりに五香粉を使う。アジアの屋台料理的な丼にして、めちゃくちゃ美味しかった。

3月6日

松尾スズキ著「もう「はい」としか言えない」、宮部みゆき著「ぼんくら」読了。

前者、表題作が面白かった。とくに冒頭。一気に最後まで読んでしまう。

後者、絶対に発売当時読んだはずだが、まったく思いだせないので読んだ。次第になんとなーくうっすら思いだすような感じはあって、「おでこ」の登場で完全に「これ読んだな」と思ったけれど本筋はほぼ忘れていたのでそのまま最後まで読む。宮部みゆきの時代小説はなんでこんなに読みやすいのだろう。「IQ」の、ヒップホップでギャングな世界観によほど心が馴染まなかったんだなということがわかるほど、今は時代物が心地よい。

少し前までは、時代物なんてむしろ好きじゃなかったのに、年なのだろうか。現代ものでは鼻について入ってこない人情や節約ぶりが、時代ものでは素直に受け取れる。ファンタジーなのだ。

 

なにが食べたいか聞くと、夫は鶏肉といい、娘はカレーと言ったので、夕飯はチキンカレーを作った。久しぶりに一個分だけじゃがいもを入れたら、ルーがモコモコして美味しかった。

3月4日

雨。沈丁花香る。

 

妹が先生に聞いてきた話によると、父の血液内にばい菌が入りこんだらしい。詳しい事はよくわからないが抗生剤だかで養生しているらしいとのこと。

病室の父は、いやあ今度ばかりはダメかと思ったよと笑っていたという。

「何しろ、3日も意識がなかったんだから!」

それは、単に麻酔で眠らせておいたからである。

 

娘はスワローズのユニフォームを着て学校に出かけた。

365日野球のユニフォームを着ているクラスメイトがいるので、さして目立ちはしないだろうと好きにさせる。

帰宅した娘に、誰かにユニフォームについて言われたかと尋ねると、自分からみんなにこれ何のユニフォームかと聞いて回ったそうで、正解者は3名、内1人はもちろん365日鈴木誠也のユニの子だ。

 

今日はできれば少し書道がやりたいと言って、娘は持ち帰っていた書道セットと、祖母からもらった半紙を広げ、大きく、春と一文字書いた。

 

墨の匂いが漂う部屋の中、窓の外で鳥が鳴き出し、雨が上がったのを知る。まどろんでいた猫はその声にピッと醒め窓の外を凝視し、娘は続けて、猫、と書いた。